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※本ページに記載している症状等の説明は、障害年金の請求に必要となる一般的な事項をまとめたものであり、すべての方に当てはまるものではありません。記載内容は参考情報としてご利用いただき、実際の症状や診断については、必ず医療機関などの専門機関にご相談ください。
幼少期にポリオに罹患し、懸命なリハビリテーションにより社会生活を送ってこられた方々が、中年期に差し掛かった頃、突如として新たな筋力低下や疲労感に襲われるという現象が起きています。これが「ポストポリオ症候群」です。
長い間安定していた身体機能が徐々に低下していくという事実は、当事者にとって大きな不安と苦痛をもたらします。しかし、この症状が障害年金の対象となることをご存知でしょうか?適切な申請により、生活の経済的負担を軽減できる可能性があるのです。
ポストポリオ症候群は、ポリオ(急性灰白髄炎)に罹患した後、長期間を経て発症する遅発性の神経筋疾患です。ポリオとは、ポリオウイルスの感染によって脊髄前角細胞が侵され、四肢の急性弛緩性麻痺を引き起こす病気です。一般的に抵抗力が弱い乳幼児の罹患率が高く、脊髄性小児麻痺とも呼ばれています。
ポストポリオ症候群が発症する仕組みについては、いくつかの説が提唱されています。最も有力とされているのは「運動ニューロンの過用」説です。ポリオによって多くの運動ニューロンが破壊されると、残った少数のニューロンが通常よりも多くの筋線維を支配するようになります。こうした過剰な負担が長年続くことで、残存していた運動ニューロンが徐々に機能を失い、新たな筋力低下や疲労などの症状が現れるとされています。
また、ポリオ罹患時に無症状であった部位でも、実はウイルスによって運動ニューロンの一部がダメージを受けており、それが長い年月を経て機能低下につながるという説も提唱されています。
この疾患の特徴として、ポリオからの回復後、少なくとも10年以上(多くの場合は30〜40年)の安定期間を経て、徐々に新たな症状が出現するという点が挙げられます。
ポストポリオ症候群には、以下のような特徴的な症状がみられます:
ポストポリオ症候群の診断は、以下の条件を満たす場合に考慮されます:
診断には神経内科医などの専門医による詳細な問診と神経学的検査、筋電図検査などが必要となります。他の神経筋疾患や関節疾患との鑑別も重要です。
ポリオからポストポリオ症候群に至る典型的な経過は以下のようになります:
急性期(ポリオ罹患時): 多くの場合、乳幼児期にポリオウイルスに感染します。発熱や頭痛などの初期症状の後、急速に筋力が低下し、特に下肢を中心とした麻痺が生じます。症状の程度は軽度から重度まで様々です。
回復期: 急性期から数週間〜数カ月後、残存した運動ニューロンが新たな神経枝を伸ばし、麻痺した筋肉の一部が再支配されることで、機能回復が始まります。この時期には積極的なリハビリテーションが行われ、多くの患者さんは日常生活動作の改善を経験します。
安定期: リハビリテーションによる回復がプラトーに達した後、多くの患者さんは10年以上、時には30〜40年にわたり症状が安定した状態を維持します。この期間中、残存した障害に適応しながら、学校や職場、家庭での生活を送ります。
ポストポリオ期(新たな症状出現): 40〜50代になると、徐々に新たな筋力低下や疲労感などの症状が出現し始めます。初期には「年齢のせい」と思われがちですが、症状は進行性であり、次第に日常生活に支障をきたすようになります。
進行期: ポストポリオ症候群の症状は通常、緩やかに進行します。適切な運動管理や疲労回避などの対策を講じることで、進行を遅らせることが可能とされています。
この経過の中で特筆すべきは、ポリオ罹患後の「社会的治癒」という概念です。障害年金制度上では、ポリオ後の安定期間において特に治療することもなく、健常者と変わりない社会生活を送ってきた場合、「社会的治癒」として認められます。そして、後年になって新たに発症したポストポリオ症候群は、元のポリオとは「別疾病」として取り扱われるようになりました(平成18年2月17日の事務連絡により)。これにより、ポストポリオ症候群の初診日は、この症候群について初めて医療機関を受診した日と見なされることになったのです。
ポストポリオ症候群による症状で日常生活や就労に支障をきたしている場合、障害年金の受給対象となる可能性があります。しかし、どのような状態であれば受給できるのか、その認定基準を正確に理解しておくことが重要です。
障害年金は、障害の程度に応じて等級が決まり、その等級によって支給額が異なります。ポストポリオ症候群の場合の等級別認定基準は主に以下のとおりです:
障害年金1級:
障害年金2級:
障害年金3級(厚生年金加入者のみ):
障害手当金(一時金、厚生年金加入者のみ):
これらの認定基準はあくまでも一般的な目安であり、実際には医師の診断書に基づく医学的所見と日常生活における具体的な制限の度合いを総合的に判断して決定されます。実際に一人で外出可能であっても、他の要素を考慮して2級に認定されるケースもあります。
障害の等級を判断する際に重要となるのが、日常生活における基本的な動作の可否です。ポストポリオ症候群の場合、特に以下のような動作が評価ポイントとなります:
これらの評価に加えて、ポストポリオ症候群特有の症状である「過用症候群」(過度の使用による症状悪化)も考慮されます。同じレベルの活動でも、健常者より極端に疲労しやすく、回復に長時間を要する点が、障害の評価において重要な要素となります。
実際の認定がどのように行われるのか、いくつかの典型的なケースを見てみましょう:
1級認定の例:
2級認定の例:
3級認定の例:
ポストポリオ症候群の場合、緩やかではあるものの進行性の経過をたどることが多いため、定期的に障害状態を再評価することが重要です。初回認定後も症状が悪化した場合は、上位等級への変更申請が可能ですので、症状の変化を適切に記録しておくことが大切です。
ポストポリオ症候群による障害年金の申請は、いくつかの重要なポイントを押さえることで、年金を受給できる可能性が高まります。ここでは、申請により年金を受給するための具体的なアドバイスをご紹介します。
障害年金申請において、「初診日」の特定は極めて重要です。ポストポリオ症候群の場合、初診日に関して特に注意すべき点があります。
ポストポリオ症候群の初診日の考え方
平成18年2月17日の事務連絡により、ポストポリオ症候群は元のポリオとは「別疾病」として取り扱われることになりました。以下の条件をすべて満たす場合、ポストポリオ症候群の初診日は、この症候群について初めて医療機関を受診した日となります:
この取扱いは非常に重要です。なぜなら、平成18年2月以前は、ポストポリオ症候群の障害年金請求は、20歳前障害による障害基礎年金によるものでした。長年就労し厚生年金を納めていた方が、ポストポリオ症候群となった場合でも、幼少期のポリオ罹患時を初診日として障害基礎年金を請求せざるを得ず、金額的に不利な年金を受給することになっていたのです。
現在の取扱いにより、ポストポリオ症候群が「別疾病」として認められるため、発症時に厚生年金加入中であれば、障害厚生年金が請求できる制度上の優遇が可能になりました。これにより、より有利な年金受給の道が開かれたといえるでしょう。
初診日を証明する書類
初診日を証明するためには、基本的には「受診状況等証明書」が必要です。これは初診時の医療機関で作成してもらう公的な証明書です。しかし、医療機関の廃院や記録の保存期間経過などにより受診状況等証明書が入手できない場合は、以下のような方法で初診日を証明することができます:
ポストポリオ症候群の場合、初診時には「筋力低下」「異常な疲労感」などの症状で受診し、すぐにポストポリオ症候群と診断されないケースも少なくありません。そのため、他の診断名がついていた場合でも、後にポストポリオ症候群と診断された症状の初診日が重要となります。
神経内科等のポストポリオ症候群の専門医による診断が行われることが望ましいとされていますが、専門医が少ないという現状もあります。診断までの経緯を丁寧に記録し、証明することが大切です。
障害年金の申請には、指定の様式による「診断書」が必要です。この診断書は主治医が作成するものですが、ポストポリオ症候群の場合、特に以下の点に注意が必要です。
診断書で重要な記載ポイント:
ポストポリオ症候群は、目に見えない症状(疲労感や痛み)や日によって変動する症状が特徴的です。これらの症状は客観的な検査だけでは評価しきれないため、患者の訴えを丁寧に記載してもらうことが重要です。
診断書作成前に、日常生活での困難さを記録したメモを準備し、主治医に提示するとよいでしょう。また、ポストポリオ症候群は専門性の高い疾患であるため、神経内科等の専門医による診断書作成が望ましいとされています。
障害年金の申請には、様々な書類の提出が必要ですが、中でも「病歴・就労状況等申立書」の作成は特に重要です。この書類では、発病から現在までの経過を時系列で詳細に記載します。
効果的な申立書作成のポイント:
実際にポストポリオ症候群で障害年金を受給された方々の事例を見ることで、申請の参考になります。ここでは2つの事例をご紹介します。
基本情報:
発症から申請までの経緯: この方は5歳の時にポリオに罹患し、右下肢に軽度の麻痺が残りましたが、リハビリテーションにより歩行能力を回復。特に装具などを使用せず、一般企業に就職し、約35年間勤務してきました。
55歳頃から徐々に右下肢の筋力低下と疲労感を自覚するようになり、歩行距離の減少や階段昇降の困難さが出現。当初は加齢によるものと考えていましたが、症状が進行するため神経内科を受診し、ポストポリオ症候群と診断されました。
診断後も勤務を続けようとしましたが、疲労感が強く、通勤や職場での活動が次第に困難になり、58歳で退職。その後、障害年金の申請を行いました。
障害の状態:
申請のポイント: この事例では、以下の点が評価されました:
4-2. 50代女性の事例
基本情報:
年齢・性別: 50代女性
傷病名: ポストポリオ症候群
認定等級: 障害基礎年金2級
発症から申請までの経緯: この方は2歳の時にポリオに罹患し、左下肢に麻痺が残りました。成長とともにリハビリを行い、短下肢装具を使用しながらも自立歩行が可能となりました。結婚・出産を経験し、パートタイムで事務職として働いていました。
45歳頃から、それまで問題なかった右下肢にも力が入りにくくなり、両上肢の筋力低下や全身の異常な疲労感も出現。家事や仕事を続けることが次第に困難になっていきました。整形外科や神経内科を受診しましたが、はじめは原因不明とされていました。
48歳の時に大学病院の神経内科を受診し、詳細な検査の結果、ポストポリオ症候群と診断されました。その後も症状は徐々に進行し、特に疲労感と筋力低下が顕著になったため、50歳でパートの仕事を辞めざるを得なくなりました。
この方は幼少期のポリオ罹患時を初診日として障害年金を申請しましたが、当初は認定されませんでした。しかし、平成18年2月の事務連絡を根拠に、ポストポリオ症候群の初診日(45歳時の整形外科受診)を初診日として再申請し、障害基礎年金2級が認定されました。
障害の状態:
申請のポイント:
この事例の特徴的な点は、平成18年2月の事務連絡以前に一度申請して不認定となった後、事務連絡を踏まえて再申請し認定された点です。再申請の際に重視されたポイントは以下の通りです:
これらの事例から、ポストポリオ症候群による障害年金申請において重要なポイントが浮かび上がります:
これらの事例は一例であり、同じ診断名でも症状の現れ方や日常生活への影響は人によって大きく異なります。あなたの状況に合わせた最適な申請方法を検討するためには、専門家への相談が有効です。
ポストポリオ症候群のような、発症から診断までの期間が長く初診日の特定が難しい疾患では、専門家のサポートが特に重要となります。専門家は、医学的所見だけでなく日常生活の困難さを含めた総合的な状態を審査に反映させるためのサポートを提供してくれます。不安や疑問を抱えながら一人で申請するよりも、専門家のサポートを受けることで精神的な負担も軽減され、より確実な申請が可能になるでしょう。初めての申請はもちろん、更新時や状態変化時にも専門家への相談をおすすめします。
この記事は、三重県津市で障害年金申請サポートを行っている脇美由紀が執筆しました。障害年金の制度や申請方法は変更されることがあります。最新の情報については、お近くの年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。

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